心不全と喘息発作~似ているようでやっぱり違う!~

救急

どうも、こんにちは! Dr.クルクルです。
前回は「救急外来の考え方・動き方」と題して『総論』をお話ししました。
今回は『各論』で「心不全と喘息発作」についてのお話をしようと思います。

心不全と喘息となると心臓と肺の話ですから全く別の病態です。でも、これが救急外来には似たような主訴で来るため鑑別が必要です。前回お話しした『主要症候』で言えば、「呼吸苦、喘鳴」が今回のテーマです。

まずは各疾患の初療についてざっくり確認しましょう。
喘息発作と言えば…まず、β刺激薬の吸入です。あとはステロイド(吸入や静注)などなど。
対する心不全は….パターン別です! とはいえこれだけではざっくりし過ぎですよね(笑)
救急外来に来る頻度の多いタイプの心不全ではNPPV装着, 降圧±利尿薬, β遮断薬です。
つまり、かたやβ刺激かたやβ遮断と治療法は全く真逆になるのです!
まあ、心不全はパターン別と言った通りβ刺激薬を使うシーンもあるのですが😅
という訳で、見誤らないようにしましょう!!

まだ救急外来診察の経験の浅い(無い)人は「そんなに似ているの??」と感じているかと思いますが、心不全による呼吸困難は別名「心臓喘息」と呼ばれるくらい似ているんです。
① まず、呼吸苦。初期は労作時のみで重症化すると安静時も呼吸苦が出始めます。
② それから、wheeze。末梢気道の狭窄により生じる呼気性喘鳴です。
喘息は気道炎症による末梢気道が狭窄し、そこに分泌物増加による物理的な狭窄が加わります。
対して、心不全は血液が間質に漏れて間質(細胞)が浮腫みます。粘膜も浮腫みので末梢気道が狭窄します。また、間質から肺胞内に血性液体成分が漏れ出すことでピンク色の泡沫状痰が発生し、この分泌物も末梢気道の狭窄を助長します。

呼吸苦・喘鳴は有名どころですが、なんと心不全に特異的と思われがちなこんな症状まで一緒なんです!

③ 起坐呼吸

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心不全においては座位をとることで血が重力に従って下に溜まってくれることで、静脈還流が減少し前負荷が軽減されることで呼吸苦が改善します。
対して喘息は座位をとることで重力に従って横隔膜が下がり呼吸面積が広がるため、呼吸がしやすくなります。

④ 頸静脈怒張

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まず、頸静脈怒張は45度のファーラー位(半座位)になり、頭が心臓より高い位置にある状態にしてから評価しましょう。
心不全であれば、右心不全所見として頸静脈怒張が出現します。左心不全であっても、左心不全によって左心で血流が堰き止められ、肺が鬱血し、右心も鬱血して心不全に至る(両心不全)となるため頸静脈怒張は出現することがあります。
対して、喘息では呼気努力によって胸腔内圧が上昇することで頸静脈怒張が出現します。漫画などで憤っている(フヌーッ!!!😡)時にこめかみに青筋💢が浮き上がってますよね。あんな感じです(笑)

それでは次に心不全と喘息の相違点です。
「疫学」
心不全は高齢で高血圧や糖尿病がベースにあって心筋虚血の既往があれば、そりゃなりやすいよねぇって感じですね。
対して、喘息は若年でアトピー体質の人なんてのが典型的です。
ただ、

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グラフの通り, 喘息患者は二峰性で高齢者にも意外と多いんです!なので、「高齢者だから心不全!!」と安易に決められません。
逆にこの好発年齢ではない働き盛りの世代の人でアレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎、鼻茸を持っている人が喘息症状できたら「アスピリン喘息かも!」と気づけます。

「病歴」
つづいて、病歴。
心不全は体重増加や浮腫の増悪(特に四肢)といった病歴が参考になります。
喘息は慢性咳嗽・喘鳴といったものが参考になります。
ただ、病歴で判断というのは意外と難しく、先行する感冒がきっかけになってどちらも起こり得るし、緩徐に悪くなるケースもあれば突然発作が出ることもあります。

「身体所見」
喘息に特異的な身体所見って意外とないんですよね。まあイメージは若くて細くてゴホゴホ、ヒューヒューって感じですが。。。
対して、心不全は圧痕性浮腫、Ⅲ音の聴取、ピンク色の泡沫状痰が特異的な所見です。正直、頸静脈怒張も臨床現場では心不全らしい所見としてチェックしてます(先程共通事項と言ったばかりですが)。

「検査」
検査と一言で言っても色々ありますが、救急外来でやるものに限定して紹介します。
① レントゲン
悲しいかな、ここでも喘息特有の所見というのはありません😓。肺野の透過性が両側ともに更新していることがあります。これは末梢気道が狭窄して息が吐き出せないせいで肺胞がパンパンに膨れ上がって空気がたっぷり入っている証拠です。ただ、COPDでも同様の所見が出現します。喘息とCOPDはとてもよく似ている、もしくは併発するので鑑別はなかなか難しいこともありますね。
対して、心不全はレントゲンこそ王道の鑑別ツールです!是非覚えましょう。
肺鬱血によって出現する所見その1はButterfly shadowです。

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これは肺門部血管陰影の増強とも言われます。その名の通り肺動脈の血管の影が濃くなってますよーということ。これは左心不全の所見です。先程も少し出てきた話ですが、左心不全になると左心で血流が堰き止められます。すると、その手前にある肺に血液が溜まり(鬱血)して、レントゲンにて肺動脈が太く写るという訳です。

続いて肺鬱血によって出現する所見その2はKerley’s B lineです。

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Kerley線はA-C全てが小葉間隔壁の肥厚によって出現するものです。特にKerley’s B lineが有名で、これは何度も出てきている通り鬱血することで間質に水が漏れ出して間質が肥厚することで顕在化します。言葉で説明するなら肺底部に1cm間隔で横線が並んでいる状態となります。

そして、そんなアップアップの心臓ですので心拡大が起こります。仰臥位で心胸郭比≧55%なら心不全の可能性があります。ただ、急性心不全か見分ける必要があるときは経時的な変化の方が重要となってきます。

② 続いて心電図
こちらも喘息は変化なし。心不全では心房細動(Af)や心筋虚血(ST変化, T波変化, 異常Q波)、左脚ブロック、左室肥大(R波の増高、Ⅰ/aVL/V5/V6の右下がりのST低下、陰性T波)など、まとめてしまうといわば心疾患の既往を示唆する所見を認めます。でも、これで心不全の確定診断に至る訳でなく、むしろ心不全の原因しっかんとしてAMIなどヤバイ疾患が隠れてないか調べる!といった意味合いの方が大きいような気がします。

③ 続いてエコーです。
有名どころはIVCの拡張ですね!IVC≧20mm, 呼吸性変動1/3未満は右心不全を示唆します。しかし、一部の肺疾患(COPD睡眠時無呼吸症候群などのはい高血圧症をきたすもの)では、前述のダム理論で肺動脈の狭窄による肺高血圧症で血が堰き止められて、その手前にある右心も鬱血して右心負荷がかかった状態になるので特異度が高いとは言い難いです。
心エコーでパッと見でもわかるのは左室駆出率(EF)の低下です。長軸像で左室の動きを見て評価します。EF<50%は左心機能低下を示唆しています。でも、これが元々なのか今そうなったのかはわかりませんのでご注意を。
そして最も診断特性に優れたエコー所見がE/e’≧10です。ただ、ここまで来ると循環器内科や救急科医はやるけども、初期研修医にまで求められるスキルとは言い難いかなーということで今回は詳細省略。興味があったら調べてみてください。

おすすめ書籍は「研修医のための臨床心エコー」です。

研修医のための臨床心エコー―診断へ導く撮り方・読み方

研修医のための臨床心エコー―診断へ導く撮り方・読み方

  • 作者:田邊 一明
  • 出版社/メーカー: 文光堂
  • 発売日: 2016/02/17
  • メディア: 単行本

ちなみに、最近の流行りは「肺エコー」です。リニア型のプローベで両側の前胸部に当ててみましょう!すると、心不全ならB lineが見られます。

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この縦に何本も伸びている線がBlineです。普通の乾いた肺では出現せず、肺の間質の浮腫を反映して肺が水っぽくなる程(肺水腫が増悪する程)より太く、よりたくさんのBlineが出現します。

④ 続いて血液検査
血液検査は鑑別診断に大いに役立ちます。ただし、結果が出るのに1時間程度かかるため、治療介入の方向性を決定する上では血液検査の結果は待っていられないのが難点です。
心不全といえばBNP心不全ならBNP>100pg/mlとなります。これより低いと異常高値だとしても循環器内科の先生は心不全として認めてくれないかも。でも、突然発症の心不全ですぐに病院に来た患者さんの場合BNPがあがる暇もなく私たちが採血している可能性があるので、油断は禁物!
喘息ではアレルギー反応を反映して好酸球数の増加をきたすことがありますが、こちらも参考程度。確定診断に寄与する訳ではありません。

⑤ 呼吸器検査
やっと喘息のための検査が出てきました!喘息ではスパイロメトリーによるピークフローの測定が不可欠です。ピークフローとは思い切り息を吸った後、全力で息を吐いたときの速度(最大呼気流速度)のことで喘息患者ではこのピークフローが低下します(閉塞性換気障害)。正常の60-80%になってしまうと中等症であるため、これより多いか少ないかで軽症・重症を判断することになります。そして、β刺激薬吸入の効果判定もこのピークフローで行うので、必ず吸入前にピークフローを行う癖を付けておきましょう。

やっと一通りの説明がおわりました😅
それでは、これらの情報を踏まえてどのように救急外来でアプローチすれば良いのか、流れをお示しします!

〜救急外来での心不全と喘息発作の鑑別法〜
主訴:呼吸苦
第一印象:喘鳴があって苦しそう!
「喘息か心不全ぽいぞ!呼吸苦を取ってあげるために早くβ刺激薬吸入をしたい!」
でも、心不全だったら不整脈が発生したり悪い方向に進んでしまうので…
思考の根幹:心不全を除外!!
詳細な病歴聴取:心疾患の既往はあるか?なにをしているときに発症したか?
身体所見:下腿浮腫の有無
心電図:新規心電図変化の有無(特にSTEMI)
肺エコー:両側にBlineがあるか?
心エコー:IVC拡張はあるか?テクニックがあればE/e’>10かcheck
胸部XP:心拡大、肺鬱血像( バタフライシャドウ、カーリーB線)の有無
上記がなければ、採血を提出して、いざβ刺激薬吸入!
吸入前に必ずピークフローを測定して、吸入後ピークフローで効果判定。
あとは、各疾患毎の治療に移行…

どうですか?イメージは湧きましたか?あとは、救急外来で実際に患者さんに出会って体で覚えていきましょう。

最後にせっかくなので各疾患の初療について簡単に説明します。
喘息発作はまず重症度を決定し治療ステップに則って治療内容を考えます。

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当院もそうですが「喘息パス」がある病院はそれを利用しましょう。フローチャートに乗って治療を進めていくと確実で抜けがないだけでなく、呼吸器内科に自然な形で引き継いで、発作時治療後の寛解維持につなげることができます。

心不全は冒頭でお伝えした通りパターン別でしっかり治療を見極めましょう。このパターン訳を「クリニカルシナリオ(CS)」と言います。

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クリニカルシナリオはとても覚えやすいものとなっています。血圧が高ければCS1, 血圧が普通ならCS2, 血圧が低ければCS3, CS4/5は治療がガラッと変わってくるのでCS1-3と分けていると考えれば良いかと思います。CS4が心筋梗塞などを含むACS, CS5は右心不全です。
救急外来に来院する頻度はCS1が多い印象です。左室の動き自体は悪くないけども、あるきっかけで血圧が上昇し後負荷が上がってしまって、左室から血を押し出せない状況となっています。そこでNPPVと硝酸薬(血管拡張薬/降圧薬)の登場。先にわかりやすいところから、硝酸薬で降圧すれば体血圧が低下し後負荷が下がり心臓から血がまた押し出せるようになります。
そしてNPPVの効能ですが、
① まず肺水腫による低酸素を是正します。このとき肺胞に陽圧がかかることで肺水腫が改善します。イメージとしては肺胞を空気で押し広げてそこに溜まっている水を間質に戻し、しかも間質の浮腫によって遠くなっていた血管(ガス交換できる部分)と肺胞表面の距離を近づけるといった感じです。
② そして平時は陰圧になっている胸腔内圧が陽圧になることで心臓からみると収縮(心臓が小さくなる)方向に圧がかかって左室収縮を後押ししてくれます。
③ 最後に胸腔内圧が高まることで上/下大静脈の血流の戻る量(静脈還流)が低下し、前負荷の軽減につながります。
まさに、心不全にぴったりな治療機材ですよね!
その他のCSに関しては
CS2は血圧正常つまりもともと心不全があって(慢性心不全)急性増悪したようなものが多く、
CS3はとうとう心臓が動かなくなってきているタイプの心不全です。こんなときは点滴をして血圧を上げたり、それだけでは足りないので強心薬(β刺激薬の持続静注など)を併用して急性期の血圧維持に努めることが多いです。
CS4はとにかく素早くカテーテル治療を!
CS5は右心から左心に血流が流れていないから「強心薬」で無理やり心臓を動かし血流が流れるようサポートしたり、血圧が安定している場合は右心不全を解除すべく利尿を行います。
そして、病状が安定したら生命予後および心筋保護を考慮しβ遮断薬を開始しましょう。

まとめです。
wheezeを伴う呼吸苦の患者が来院したら、身体所見・十二誘導心電図・エコー・胸部レントゲン撮影を行って鑑別!
喘息ならβ刺激薬の吸入→その後は喘息パスに則って治療していきます。
心不全ならクリニカルシナリオに合わせて治療をする。(CS1なら陽圧換気と降圧を)

本日はここまで!
次回は未定ですがまた「各論」で具体的な診察内容についてお話ししたいと考えています。

 救急外来で気になっていることや今現在困っていることがあったら私に教えてください。いただいた質問に可能な限りお答え出来たらと思います。

 それでは、また(^-^)/

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