WHOの三段階除痛ラダーはもう古い!?(がん性疼痛の投薬管理)

仕事

在宅医療ではお看取りまで請け負うため、末期がんの患者さんを担当することも多いです。
在宅医療の基本は救急医療で網羅できますが、末期がん患者の疼痛管理は救急ではなかなか扱うことがない分野なので、改めて勉強し直しました。

まず日本ペインクリニック学会の記事が大変わかりやすかったため、そちらをご紹介します。
https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_keywho.html

がん性疼痛といえば「WHOの3段階除痛ラダーに則って、弱い非オピオイド(麻薬ではない鎮痛薬)から始め、だんだん強い薬に変更していく」というイメージだったのですが、どうも「痛みが強いときは初めから強いオピオイドを使って良い」ようです。

正確にはこのラダーを設定した当初から「過剰な麻薬使用を避けるために、正しい評価をして適切な薬を使いましょう」と言っているだけで、「弱いものから使いましょう」と厳密には言っていなかったようです。でも、私を含めほとんどの医療者が「弱い薬から順番に使っていくルール」と勘違いしてしまったのですね。その結果、この除痛ラダーは2018年の改訂で消えてしまいました。
ただし、薬の選択の際にはこのラダーの概念は大変参考になるため、疼痛管理と言えば「WHOの除痛ラダー」がいまだに紹介されているのだと思います。

末期がん患者を含む緩和ケアについては、自身で勉強することも大切ですが厚生労働省が主催する「緩和ケア研修会」を受講することも非常に大切です。
この研修会はいつでも受講できる「e-learning」と1度の「集合研修会」で構成されますが、勉強になるから大切というだけではないのです。
なんと、この研修を受けているかいないかで「診療報酬の点数が変わってくる」のです!
具体的には以下のような診療報酬項目があります。

また、この緩和ケア研修会のe-learningサイトは何度でも繰り返し見直しが可能です。
このサイトの「がん疼痛の治療 (2)オピオイド鎮痛薬」の項目は「麻薬の特徴と具体的な処方」を見ることができるので大変重宝しています。

例えば一例ですが、代表的な強いオピオイドである「オキシコドン」についてはこのような内容が記載されています。
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オキシコドン
・チトクローム系 (CYP3A4,CYP2D6)で代謝されるため、併用薬剤との薬物相互作用に注意が必要である
・オキシコドン未変化体(約10%):鎮痛作用あり
・ノルオキシコドン(約85~90%):痛作用なし
・オキシモルフォン(約1.5%):オキシコドンの約14倍の鎮痛作用
・一方、オキシコドンの代謝物は腎機能の影響を受けにくく、腎機能障害がある場合でも比較的安全に使用できる
・内服薬と注射薬(静脈・皮下投与)がある
・モルヒネ、および各投与経路間の換算比が確立している
 例1)経口モルヒネ 60mg=経口オキシコドン 40mg
 例12)経口オキシコドン 40mg=オキシコドン注 30mg

多職種アプローチ[薬剤師]
粉砕不能な乱用防止製剤が発売されている
・錠剤が硬く、破砕困難である
・水を含むとゲル化するため、溶かして乱用することもできない

開始時の処方例
経口投与:オキシコドン放薬 1回 5mg 1日2回12時間毎
経口投与困難時:オキシコドン注 1日 5〜10mg/日 持続静注または皮下注
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このような形で使用頻度の高い薬剤については詳細な情報提供がされています。
このe-learningは無料で受講できるので、医療従事者の方は是非受講してみてください!

最後に、当院および当院関連クリニックで実際に麻薬を使っている末期がん患者さんへの投薬例をご紹介します。
大腸がん末期:オキシコンチン20mg+オキノーム 2.5mg(レスキュー)を使用。その後、フェントス2mg+オキノーム5mgに変更。食思不振の悪化あり、デキサメサゾン0.5mgを開始。

前立腺がん末期:ナルサス26mgおよび頓服ナルラビド5mgで疼痛コントロール。

オキシコンチンがオキシコドンの徐放剤で、オキノームがオキシコドンの即効薬(レスキュー用)
ナルサスがヒドロモルフォンの徐放剤で、ナルラピドがヒドロモルフォンの即効薬(レスキュー用)です。

全身倦怠感や食欲不振がある場合は、ステロイドで改善するケースもあり使用されます。
デキサメサゾン(またはベタメタゾン)4~8mg/日で開始し、3-5日で効果判定します
期待した効果を認める場合は、漸減し効果が維持できる最小量 (0.5〜4mg/日)で継続します。

ちなみに、多くの場合は病院で疼痛コントロールをある程度してから在宅医療に移行するため、大抵の場合は前医の処方を継続する形で良いかと思います。
以上、参考になれば嬉しいです。
ではまた。

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